最終更新日 2021年10月12日 by co-in

こんにちは。co-inと申します。「Company」と「Interpreter」の頭文字2文字ずつを取ってco-inです。名前の通り、通訳業界でのサービスを始めました。

この記事では、他の業界とは少し違う、「通訳のキャンセル料」について解説します。通訳業界のキャンセル料の相場、その背景にある考え方、また通訳業界特有の「仮案件/仮押さえ」という概念について、ご理解いただける内容になっております。特に、「仮案件/仮押さえ」という概念は他の業界にはない考え方です。通訳を頼む前に是非チェックしてください。

通訳キャンセル料の相場

結婚式を突然キャンセル!キャンセル料はいくら?今注目の「結婚式の中止・延期」に備える保険とは? | ゼクシィ相談カウンター

通訳キャンセル料は、基本的には、7日前から発生し、キャンセル日が当日に近づくに従って依頼料金に対する料率が上がっていきます。

しかしながら、会社によって依頼料金に対する料率は変わります。そのため、以下に、いくつかのエージェントのホームページに記載されているキャンセル料率を記載します。(2020年9月時点)

A社B社C社D社
7日前~6日前30%50%発生しないキャンセル日に関わらず、確定後は100%。※
5日前~4日前50%30%
3日前~2日前70%50%
1日前~当日100%100%100%

※確定という概念については記事後半の仮案件/仮押さえの項目で解説します。

この表を見ると、「ホテルのキャンセルと似ている」と思う方もいるかもしれません。通訳の場合は、ホテルよりも早い段階でキャンセル料が発生することが特徴です。ホテルの場合、特に素泊まりの場合は前日までキャンセル料が発生しないことも多くあります。

また、頼む会社によってキャンセル料は大きく異なることも表から読み取れます。そのため、実際に通訳を依頼されるときは、依頼先のキャンセルポリシーをご確認いただくことをお勧めします。

ちなみに、「そもそも依頼料金っていくらだったっけ。。。」という方は、こちらの記事で通訳の依頼料金について解説していますので、参考にしてみてください。

通訳キャンセル料の背景にある考え方

whyの写真素材|写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOK

「通訳って当日来て、耳で聞いて違う言語に換えて話すだけなのに、なんでキャンセル料がかかるのだろう?」そんな疑問を抱いたことはないでしょうか。

旅館やレストランは掃除、仕入等の準備もあり、ほかの顧客の予約も断っているため、キャンセル料がかかることは比較的理解しやすいと思います。また、通訳と似たサービスの翻訳でも作業に取り掛かっていたらキャンセル料がかかることは想像が難しくはありません。(通訳と翻訳の違いはこちらの記事で解説しています。)

それでは、通訳ではなぜキャンセル料がかかるのでしょうか。

通訳でキャンセル料がかかる理由は2つあります。1つ目は、通訳者の当日までの稼働料を支払うため、2つ目は、他の案件を断ることによる機会損失を補填するためです。

通訳者の当日までの稼働料を支払うため

キャンセル料の一部は、本番を迎えるまでの通訳者の稼働料として考えることができます。通訳者は、通訳の本番当日まで予習に多くの時間を割きます。

当日までの予習は、通訳パフォーマンスに決定的な影響を与えるからです。何も予習をせずに、当日いきなり本番に臨むのは、いくら言語力とスキルが高い通訳者でも難しいです。

なぜなら、通訳者は、毎日違うジャンルの会議に出席することが多くすべてのジャンルに対して完璧に対応することは難しいからです。例えば、昨日は金融についての会議に出席し、今日は医学についての会議に出席するということも少なくありません。事前に会議の内容を把握し、予習しておかないと内容についていくのが難しいことがあります。そのため、必ず予習をしています。

(なお、通訳における予習の必要性については、こちらの記事の「通訳における予習の必要性」で触れています。)

結果的に、通訳を直前でキャンセルすると通訳者に大きな損失を生みます。通訳者がその日まで予習に割いた時間がタダ働きとなるからです。キャンセルになった案件の予習に割いた時間に、他の案件を入れたり、その時間を他の案件の予習に費やしたりすることができれば、収入を増やすことができたはずです。

他の案件を断ることによる機会損失を補填するため

キャンセル料の一部は、他の案件を断ることにより生じる機会損失への補填として考えることができます。通訳者は日程が抑えられると、基本的に同じ日時で後から来た案件を断ります。そのため、後からどんな好条件の案件(報酬が高い案件や実績として高く評価される案件など)が来たとしても、泣く泣く断り、最初に押さえられたものを優先します。

よって、キャンセル料が入らない状態で、通訳が直前でキャンセルされると、予定されていた収入の減少に加え、他の好条件の案件を断った機会損失が発生します。つまり、予定されていた案件の報酬以上の損失を被ることもあります。

———————-

通訳者は身一つであり、1件当たりのキャンセルによる損失がとても大きいです。例えば、ホテルや旅館は1部屋キャンセルされても他の部屋の収益で損失を補填できます。通訳者にとっての他の部屋は存在しません。そのため、予習の稼働料金や機会損失分も回収できなくなってしまいます。こうした背景もあり、通訳業界ではキャンセル料を支払うことが一般的となっています。

通訳業界特有の仮案件/仮押さえという概念

決定版】フリー(無料)で使える写真素材サイト[商用OK]初めてならこの4つ!

ここでは、少し耳慣れない仮案件/仮押さえという概念を説明します。仮案件/仮押さえの定義と特徴、問題点、無くならない理由に加え現状の通訳者の対応を解説します。

仮案件/仮押さえの定義と特徴

仮案件とは、会議やイベントの開催時間が決定していない、もしくは開催そのものが決定していない通訳を伴う案件のことです。仮押さえとは、仮案件が開催される場合に備えて通訳者の日程をとりあえず先に押さえることです。会議やイベントの開催が決定した場合、通訳者の日程を仮→確定に変更します。(確定案件と呼ばれます。)

仮案件/仮押さえには、2つの大きな特徴があります。1つ目は、仮案件として日程を仮押さえされている案件がキャンセルされても、通訳者にキャンセル料が支払われないことです。前述の確定案件になった場合は、キャンセル料が支払われます。

2つ目は、仮押さえされている日程をリリースしたいとき、通訳者は、通訳エージェント(以下、エージェント)の許可なくリリースすることができないことです。一方、エージェントは通訳者に対して一方的にリリースを通告することが可能です。

仮案件/仮押さえの問題点

仮案件/仮押さえは、前述の2つの特徴により通訳者にとって得がない仕組みであることが問題です。具体的には、通訳者が経済損失を被ることが考えられます。

1つ目の「キャンセル料が支払われない」という特徴により、仮案件として日程が仮押さえされている場合、たとえ前日にキャンセルされてもキャンセル料が支払われません。これは、その日までに準備に費やしてきた工数がタダ働きになることを意味します。加えて、他の確定案件をこの仮押さえのために断っていた場合、機会損失も発生します。準備の稼働料の損失と機会損失が合わせて10万円に達するケースも少なくありません。

実際、この1つ目の特徴を利用してすでに会議やイベントの日程が決まっていてもあえて通訳者に伝えず、ぎりぎりまで仮案件としてキャンセルが無料でできるようにする会社もあるようです。(あくまでも正式ではない仕組みですが、悪用するような会社もあり、良い通訳者からは倦厭されているいないとか…)

また、「通訳者は仮案件をリリースするのにエージェントの許可が必要」という2つ目の特徴により通訳者が経済損失を被るケースを逃れられなくなります。仮押さえをしている日程に別の確定している好条件の案件の依頼があった場合、この特徴により通訳者はすぐさま案件を受注することはできません。エージェントに許可を求める必要があります。更に、エージェントに許可を求めても、多くのケースで許可が下りることはありません。あくまで、「仮」に押さえておきたいことが意図なので、リリースを前提とする仕組みになっていないからです。通訳者としては、受け身に確定orリリースされるのを待つしかない状況に陥るのが仮案件です。よって、通訳者が機会損失を避けて、確定している好条件の案件を選択するという行動が阻まれます。結果的に、通訳者が逃れることができずに経済損失を被るケースを発生させてしまいます。

なぜ仮案件が発生するか

仮案件は、通訳業界の構造によって発生します。通訳業界は、通訳を依頼する企業、通訳者、企業と通訳者を仲介するエージェントの3プレイヤーから成り立っています。エージェントは、案件を発注してくれる企業の要望をなるべく叶えようと柔軟に動きます。これは、売り手と買い手の原理を考えたら、どの業界にも当てはまります。

また、エージェントは通訳者に対しては自らの要望を比較的通しやすい構造となっています。通訳者からすると、生計を立てたり、思い描くキャリアを築たりするにはエージェントと有効な関係を保つことは大切だからです。なぜなら、報酬が良い仕事や実績としてポイントが高い仕事の大半は、エージェントが古くからのコネクションで抱えているからです。

まとめると、エージェントは企業の要望をなるべく聞き、受注につなげ、その要望を通訳者にそのまま受け流すことが可能な構造となっています。よって、企業の要望を聞き、それをそのまま通訳者に投げる仕組みである仮案件/仮押さえも残っています。

例えば、企業が「会議に出席する役員の予定が前日まで決まらないから、確定はしたくないけど、会議が開催される場合に備えて通訳者を確保しておきたい」という要望を持ったとき、エージェントは、「仮案件ということで、受注します。」という対応をとります。そして、通訳者に対して、仮押さえを依頼します。この結果、前述のように通訳者は、ほかの案件を受注できない且つ前日にキャンセルされるかもしれない状況に陥ります。

このように考えると仮案件/仮押さえは業界の構造的問題であることが理解いただけると思います。

通訳者は仮案件/仮押さえにどのように対応しているか

通訳者ごとに3つの対応をとっている方がいます。1つ目は、エージェントの要求通りに仮案件として受諾する対応です。この対応をとっている方が一番多いようです。業界構造上、エージェントとの関係性が非常に大切なためこの対応を選ぶことは決して間違っているとは言えません。

2つ目は、条件をつけて受諾する対応です。条件の中身は、通訳者ごとに様々な場合があります。例えば、確定の期日を明確に定めるという条件があります。他には、案件の選択権を保つ仮受諾という条件があります。他の好条件の案件が仮押さえ中に来た際は、条件の良いほうを受諾できるという比較的フェアな内容です。

3つ目は、仮案件を一切受けない対応です。すでに通訳者としての実績があったり、安定して仕事をもらえる取引先がある通訳者に多い対応です。

co-inとしてのキャンセル料への考え方

私たちco-inも通訳サービスの提供を行っています。(サービスページはこちら) 通訳のキャンセル料について説明させて頂いたこの記事の最後に私たちのキャンセル料への考え方を紹介させてください。

co-inでのキャンセル料の発生時期は?その理由は?

co-inのサービスページでは、現状キャンセル料を明記していません。案件ごとに、カスタマイズして、企業、通訳者双方が納得する条件で設定するからです。

企業目線では、案件が確定できるタイミングは参加者の都合次第で変わります。通訳者目線では、予習を始めるタイミングは案件の内容により変わります。よって、一律にキャンセル料の規定を設けるのは難しいと考えています。

過去に全く同じ会議に出たことある通訳者に依頼する場合、予習期間が極端に短く済むためキャンセル料の発生は、3日前でいいかもしれません。一方、誰も経験したことのないような新ジャンルでの通訳の場合は、キャンセル料の発生は1か月前でもいいかもしれません。

なかなか実現が難しいように思うかもしれませんが、まだ経験の浅い私たちだからこそ業界の常識にとらわれずにできることです。実現するためには、一つ一つの案件に寄り添い、ヒアリングをし案件をきちんと理解することが重要だと考えています。

co-inのプロジェクト型案件での日程変更

私たちは、通常の通訳依頼に加えて業界初の試みであるプロジェクト型通訳というサービスを提供しています。このサービスは、条件付きで会議の通訳者手配を究極まで簡単にしたサービスです。このサービスの中では、会議の日程変更をする際、通訳者も会議参加者の一員として日程を調整して、新たに日程変更する仕組みを取り入れます。そのため、日程変更が発生しても、一度手配した通訳者に案件を依頼することになり、通訳者目線では、少なくとも予習の稼働料金は回収可能になります。

企業目線では、柔軟な日程変更ができキャンセル料も減らせる、通訳者としても予習が無駄にならず、確実に報酬がもらえるwin-winの仕組みだと考えています。

co-inの仮案件/仮押さえについての考え

co-inでは、仮案件を作らず、すべてを確定案件として扱います。上述のようにキャンセル料は、一つ一つの案件に寄り添いカスタマイズします。

———-

最後までお読みいただきありがとうございます。通訳のキャンセル料、仮案件/仮押さえについて少しでも知っていただくきっかけになればと考えています。もし、co-inで通訳を依頼してみたいと考えていただけたら、Googleフォームからお問い合わせください。

また、ご意見、ご感想、質問なんでもいただけますと幸いです。(メールなどなんでも受け付けています。) これからも皆さんが困ったときに少しでも役に立つ記事を配信していきます!

カテゴリー: 通訳業界知識