最終更新日 2021年6月5日 by co-in
こんにちは。co-inと申します。
CompanyとInterpreterの頭文字2文字ずつを取ってco-inです。名前の通り、通訳業界でのサービスを始めました。
通訳のサービスを提供していると、お客様から価格について以下のような質問をよく頂戴します。
- 通訳価格として日給で10万円以上するのは妥当なのでしょうか。
- なぜ半日料金と1日料金しかないのでしょうか。
- なぜ通訳価格は消費者が望む価格に収斂しないのでしょうか。
インターネットにも類似の疑問が上がっています。。
法人が通訳会社に見積もりを依頼したら、日給で10万円は、妥当なのでしょうか?
本日はこのような疑問に答えていきたいと思います。
Contents
Q.通訳代金として日給10万円は妥当なのでしょうか⇒A.妥当
結論から言うと、通訳者に日給10万円の価格を支払うことは妥当だと私たちは考えています。当日の会議中以外の時間に、通訳者は予習をしています。予習のための稼働時間を考慮すると決して高い価格とは言えません。
通訳には予習が必須
この結論を根本的に理解いただくためには、「通訳には予習が必要」という概念を理解いただく必要があります。
以前の記事でも書いたように、通訳者の業務は予習が大事です。
言葉を置き換えるだけだから、予習はいらないと思った方もいるかもしれません。こちらも同じ記事で触れましたが、通訳の業務は、単なる言語の置き換えではないのです。
通訳者は、言語の意図を理解し、正確に伝えることが仕事です。言語の意図を理解するには、予備知識が必要です。予備知識を得るためには、予習が必要です。
全く予習をせずに、分からないジャンルの会議で通訳をすることは、予習なしで全く分からないジャンルの会議で議事録を取ることに似ています。
会議では、トピックを正確に理解していないと論点がどこなのか、何が決まって何が次のアクションなのかを理解できません。そして、このように内容を理解できない状態だと議事録もあやふやなものになりがちです。
例えば、あなたが明日、急にガンについての研究会や自動車のエンジンの内部構造に関する会議に参加して、議事録が取ることを想像してみるとわかりやすいかもしれません。
飛び交う専門用語が分からない。漢字でどう書くかも分からない、そんななかでどんどん次のトピックに向かう…。「日本語がわかるんだから、メモくらい取れるよね?」と言われても、なかなか難しいことが伝わるかと思います。
通訳依頼も同様に、依頼者側にとっては、特別な知識でない、難しいことではないと感じるようなことでも、初めて参加する人にとっては難しく、言語の置き換えを行うのは非常に困難な作業になるのです。多少なりともトピックについての知識を持っていないと、正しく言語を置き換えるのも難しくなります。
そのため、業界でよく使われる言葉やその定義を予習し、その対象言語でどのような言い方になるかを予習していくのはもちろん、参加する会社の直近のニュースや決算まで予習して、事前知識をつけます。
少し逸れますが、予習はこのような専門知識だけにとどまりません。会議にかかわる基礎情報も理解しておく必要があります。例えば、参加者の名前や肩書、席次などです。小さな事に見えるかもしれませんが、誰がどのような背景で話しているのか理解しておくのはとても大切なことです。週に何度も会議がある通訳者は、多くの方と会っているため混乱しないようにきちんと会議の基礎情報も抑えています。
このように通訳の業務には予習が必須です。
通訳の予習には時間がかかる
通訳者にとって予習が必須なことはご理解いただけたかと思います。
それでは、この予習にはどれくらい時間がかかるのでしょうか。
結論としては、案件によりますが、一流の通訳者は多くの時間を予習に割いています。案件の時間が1時間だろうと2時間だろうと、案件の時間以上に予習時間がかかることは日常茶飯事です。
通訳の案件は多岐に渡っています。そして、専門性が非常に高い内容であることも多いです。
そのような案件の予習には時間がかかることは想像に難くないです。
例えば、がんについての学会に参加するとなったとき、内容を理解するために必要な勉強時間を考えていただければ想像しやすいかと思います。
通訳者は、予習に相当な時間を割いておりそれは案件の時間以上になることもあるということをここでは理解いただければと思います。
予習の稼働時間も含めると日給10万円は妥当
ここまで説明してきたように、通訳には予習が必須です。
また、予習には相応の時間がかかります。
つまり、通訳者は当日の稼働時間以外にも案件のために多くの時間を割いていることになります。このように考えると、日給10万円は妥当、もしくは非常にリーズナブルに感じるのではないでしょうか。
1日(8時間)の通訳に10万円払っていても、時給が1万円以上ということではありません。予習時間を含めると、時給換算した報酬がわずかになってしまうケースもあります。
このような背景を理解した上で、通訳の価格が妥当かどうかを判断するようにしましょう。
Q.なぜ半日/1日料金しか設定されていないのか?⇒A.料金体系の複雑性を回避するため
通訳を発注しようとしたとき驚くのが、どの通訳会社のHPにも「半日料金/1日料金」しか用意されていないことです。。1時間での通訳依頼というものが従来の業界にはなく、半日もしくは全日という2つの価格帯での依頼が慣習となっています。
半日、1日料金しかない理由は、通訳案件の多様性を料金設定に反映することが難しいからです。通訳の案件は多岐に渡るため、それぞれの予習にかかる時間を考慮することは非常に難しく、一般化した形で半日、1日料金が適用されています。
通訳の案件は多岐にわたっている
通訳の案件は非常に多様な種類があります。
通訳の種類は、形式と場面のマトリックスでわけることができます。
詳細は下記の記事に譲りますが、一般化した分け方だけで33種類もの通訳があります。また、1つ1つの種類に多くのバリエーションが存在します。
そのため、通訳の案件は一概に言える程、単純化できないのが実情です。
通訳の案件ごとの予習にかかる時間はバラバラ
通訳案件に必要な予習時間は、案件内容によりさまざまです。
例えば、毎月ほぼ同じ内容が議題の月次会議と初めて接する専門的な内容の会議で予習時間は同じではないことは明確かと思います。会議の内容以外にも、よく案件をもらう会社、初めて案件をもらう会社など様々な条件で予習時間に幅が出ます。
予習にかかる時間が、一概に何分ということは難しいことが理解いただけると思います。
多様な案件ごとに妥当な料金を設定することが現実的でないため半日/一日が一般化した
別の章で説明したように、通訳料金には予習料金を含みます。
また、通訳の案件内容は多岐に渡っており、その多岐に渡る案件ごとに予習にかかる時間はまちまちです。
つまり、予習代金としていくらを料金に含むのかということを算出するのが非常に難しい状況です。そのため、通訳業界では、一律に半日/一日料金として予習の料金も含めて一般化することが定着したのではないかと考えています。
実際に、予習にどれだけの時間がかかっているのかの議論を深めていくときりがありません。例えば、予習だけではなく、通訳になるまでのトレーニング、勉強にかかった時間も含めないのかという議論に発散しかねないです。
こうした内容を全て料金体系に反映すると、
発注元となる企業宛に、通訳者、または通訳エージェントがなぜその金額なのか丁寧に説明できるでしょうか。特にエージェント目線では、スムーズに見積もりを行い発注を受けるためには、なかなか毎度予習の工数を見積もりを行うのも厳しいのではないかと考えています。
推測ですが、通訳や通訳エージェントというお金をもらう側がこのような話をするのは、なんとなく卑しいような気もして、背景の話をしにくいという方もいると思います。
このような背景も踏まえると、一律で半日/全日となっている方が、説明が簡単で分かりやすいので、この料金設定が主要な設定として残っているのかと思います。
半日/全日料金となっているのは双方にとって納得度も高く、合理的なのです。このような経緯を考えると、歴史的にこのような仕組みを作ってきた方々には尊敬の念に堪えません。
補足的ですが、、この料金設定の一般化により、発注をする企業側も通訳者側も損をすることはあるいるように感じます。毎月似たような会議に同じ通訳者を派遣しているのに、ずっと半日料金のまま高止まりしていたり、通訳者目線でいうと、会議時間自体が半日なのに、予習がすごく大変な案件に当たってしまってしまったりします。
しかし、そのようなリスクを踏まえても合理的なためこの価格体系が残っているのだと思われます。
Q.通訳価格はなぜ消費者の望む価格に下がらないのか?⇒A.完全競争市場でないため
ここまで通訳の価格の背景を説明してきました。
料金には予習の時間が含まれていて、その予習時間の一般化が難しいため半日/一日料金で設定されています。
ここでビジネスマンの方は、「原価から価格を決めるのではなく、マーケットをオープンにして、需要と供給で自然と価格を決めれば良い」と思うかもしれません。なぜ通訳は原価(予習の時間)を軸に価格が積み上がり式できまっているのかと感じるかと思います。かくいう私もそう思っていました。
結論としては、通訳市場は完全競争市場でないため、価格が需要に合った価格にならないのです。
完全競争市場では、価格は需給で決まる
少し経済学の話をさせてください。(間違っていたらすみません)
新古典派経済学では需要と供給で自然と価格が調整されると言われています。「神の見えざる手」で有名ですね。その新古典派経済学では一つ前提があります。それは「市場が完全競争下にある」という前提です。
完全競争とは、売り手と買い手がそれぞれ多数存在していて、それぞれに価格が操作しにくい場合のことを指します。
完全競争市場は、経済学の理論上の市場状況の一つである「完全競争」が行われる市場をいいます。これは、(1)材(商品・サービス)の同質性、(2)参加者の多数性(売り手と買い手が多数存在)、(3)完全情報(市場に関する情報を全ての参加者が保有)、(4)参入・退出の自由といった四つの条件を同時に満たす市場を指し、この状況下では、市場メカニズムが適切に働き、市場全体として需要と供給が一致するような価格が均衡価格となり、一物一価の法則が成立するとされます。
https://www.ifinance.ne.jp/glossary/business/bus168.html
この完全競争市場下では価格は需給で決まるのです。
通訳は完全競争市場ではない
売り手と買い手がそれぞれ多数存在いるのが完全競争市場です。
それでは通訳は、完全競争市場でしょうか…?
私は、この前提が成り立たないのではないかなと考えております。特に、「参加者の多数性」の部分で、完全競争市場が成り立たないのではないかと思っております。
通訳者の数や、必要とする企業、必要な場面も消費財ほどは多く存在しません。
誰かが圧倒的に価格を下げてしまえば、マーケットは崩れてしまいます。そして、通訳が「飯が食えない仕事」になってしまうと、結果として優秀な通訳者が市場から消えてしまいます。誰から見ても得しない状況です。
また、逆に見ると、需要者に比して希少性が高い通訳者が、全世界で団結して価格を高止まりさせてしまうカルテルも起こりうることが分かるかと思います。(実際、そんな悪いことする通訳者の方はいませんが。)この結果も、発注者側から見て得しない状況です。
そのため、通訳市場を完全競争市場ということは難しいと考えています。
通訳市場は、完全競争市場でないため予習の時間(原価)から価格が決まる
完全競争市場でない市場では、価格は需給で調整されません。また、通訳市場は完全競争市場でないです。
そのため、通訳市場ではマーケットにおいては、需要と供給に任せきりでは、適した価格や市場が形成されません。そのため、価格を形成する上で、需要と供給に任せるアプローチは適さないと思ってます。
通訳価格が原価に基づいているのは、一定の合理性があり、多くの通訳者がこれに則って価格を決めております。私達も、この価格の決め方が一番納得感があるので一番良いと思っています。
上記のような背景があるため、消費者が望んでも通訳価格は下がらないのです。
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1件のコメント
【完全版】通訳の依頼方法、料金、頼むにあたっての知識を徹底解説 | co-in · 2020年8月23日 4:30 PM
[…] 通訳の価格についてもっと知りたいという方は、こちらの記事を参照ください。 […]
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